イロトリドリノ



彼は彼女が憎かった。

自分の一族を滅した男の子供だったから。

彼の生きる糧だった、復讐という憎悪を奪い取ってしまったから。





彼は彼女が愛しかった。

新しい感情を与えてくれたから。

憎悪の代わりの、新しい生きる糧をくれたから。





彼は彼女が憎かった。

償えきれない罪を一人で背負い、七年間共に歩んできた自分から一歩、二歩と距離をとり、離れて行こうとしたから。

誰よりも彼女の信頼を得ていたはずの自分の懇願を聞き入れてくれず、自分を置き去りにしてかってに消えようとしたから。





彼は彼女が愛しかった。

初めて自分を受け入れてくれたから。

交わる吐息が、重なる肌が、零れる切なげな甘い声が、伝わる熱が、存在全てが愛しかった。





彼は彼女が憎かった。

やっぱり、自分を置き去りにしたから。

最期に笑顔しか見せてくれなかったから。

最期まで全身全霊をかけて自分を愛してくれたから。

一生消えない感情を、自分の中に残していったから。

もう一生見えることは無いという「真実」を自分にではなく緋色の瞳を持つ男にだけ伝え、

自分には生きて戻るという優しい「うそ」を残したから。







それでも―――――







やっぱり彼は彼女が愛しかった。

七年の年月をかけて復讐を掲げて冷え切った心を優しく包み込み、温めてくれたから。

新たな希望を与えてくれたから。

自分を導いてくれた光だから。

そして目に見えず、触れることすら出来ない不確かなモノだが、確かにここに在るものを残していってくれたから。















約束を。











だから、彼は今日も生きていける。








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