*ガイ視点です。





『もう、会うのは止した方がいいんじゃないか?』





自分で歩く気力も残っていないルークを抱え、宿に戻った後。

アッシュに穢されたルークの身を清める為に、湯殿に湯を張り丁寧に洗ってやった。

傷付いた肌を丁寧に労わり、ルークの中に出された薄汚れた欲望も指を入れ、掻き出してやる。

熱いルークの中に欲が生まれないということは決してないが。浅間しい肉欲に思考が侵される前に俺は急いで離れた。

そして気を紛らわせる様に、乱れた髪を梳いてやりながら、いつか聞いたみたことがある問い掛けを再び口にしてみる。

「もう、会うのは止した方がいいんじゃないか?」

水を吸った髪が頼りなく左右に揺れる。それは以前と変わらぬ答えを指示していた。

否定。

それは自分の想いが届かないということ。どうしようもない苦しみが胸を圧迫し、息が詰まる。

「そうか……」

それでも、既にこんなにも苦しんでいるルークを、自分の想いのせいで更に苦しめたくないから。

胸を締める圧迫感から逃れ、何とか一言を返した。







気付いた時には全てが遅かった。

一月前、丁度今夜と同じような月の夜。

宿の洗面台で嗚咽するルークの姿に気付き、俺は漸くルークの身に起きたこと、アッシュとの関係を知った。

問い詰めて聞けば、アクゼリュス崩落以降、二人は身を繋げる関係になったという。

悔しい、と思う前に身の毛がよだった。

なにせ、アッシュとセックスをしてきたと語るルークの頬は腫れ上がり、服は破れ、体中に暴力の痕があったのだから。

それを合意の上だと、好きだから抱き合ったのだと言うルークがあまりにも痛々しくて。愛おしくて―――

俺は何も言えず、傷に塗れたルークを抱き締め、只涙を垂れ流した。

その夜以降も、何度かルークは夜中に宿を抜け出してはアッシュと逢瀬をしていた。

その度に、明け方行為の傷を引き摺って宿に戻り、俺の治療を受ける。

『アッシュが好きだ。愛してるんだ』

治療中、まるで自分に言い聞かせるように唱えているルークに、俺はやっぱり何も言えなかった。



ルークは言う。

アッシュが愛しているのは自分ではないと。自分をナタリアに見立てて抱いているのだとルークは言った。

それが違うことが俺にはすぐに分かった。違う。違うよ、ルーク。

奴はお前のことを愛しているんだ。間違えなく、愛している。同じ女を愛する俺には、奴の心情がよく分かった。

だって、腹立たしいことにアッシュがお前を見る目は昔の俺によく似ていたから。

憎むべき対象を愛してしまった時の目。そんな目でアッシュはお前を見ている。

暴力を振るうのは、心に発生した葛藤の為。抱くのは、倒錯した愛ゆえだ。

まだ少年だった俺もそんな想いを抱いていた。だが、ルークへの愛が勝った為、俺はそれを成さなかった。

だから、俺の方がアッシュよりも愛が深いはずなのに。重いはずなのに。ルークを得たのは俺じゃなかった。



あの時、置いて行くべきではなかった。手を離すべきではなかったのだ。

アクゼリュスを崩落させたことによって混乱し、自分を見失っていたルークに、俺は自力で立ち上がって欲しくてあえて手酷く離れた。

それがこんな結果を生み出すなんて、正直夢にも思わなかった。

あの時傍で優しく手を引いてやれば、今頃ルークは俺のものになっていたのか。

その胎内で果てることを許されていたのか。

愛し合う行為の純粋な気持ち良さや、幸福を教えてやれたのか。

それは分からない。でも、その可能性を消し去ったのは他でもない。俺自身だ。

だから、アッシュの下へ行くルークに俺は何も言う資格がないのだ。





乱暴なアッシュの行為に心身を疲労し、湯船に浸かりながら眠ってしまったルークの身体を浚い、丁寧に水気を拭き取り、

清潔な衣服を着せてやる。

そうして先程まで横たわっていた自分の寝台にルークを下ろし、俺はその横に潜り込んだ。

一人用の寝台にルークが落ちないように身体を引き寄せ、抱き締める。

ルークが怯えないように、恐ろしい夢に囚われないように願い、額に唇を寄せた。

「おやすみ…ルーク……………愛してるよ…」

誰にも、眼の前にある少女にも届かぬ愛を告白し、温もりを分かち合いながら俺は瞼を下した。







俺が眠りに入った後、ルークが翠緑玉の瞳を開けて、頬に唇を掠めた。耳元で囁かれた言葉に俺は寝たふりをした。

ルークが再び寝息を立て始めた頃。俺はひとり、涙した。












2008.5.19