軽蔑される勇気もないくせに、俺は口を開いてしまった。
蛇口を閉めると、溢れ出ていた湯水が抗うこと無く止まった。
その素直な様を見て、心から溢れる想いもこんな風に止まって、跡形も無くなってくれればいいのに。ルークはそう思った。
先に、と勧められた風呂に頷くだけの返事を返し、ルークはガイに促されるままに浴室に入った。
そのまま習慣で意識せずとも衣服を脱ぎ、浴槽に深く身体を沈める。
手遊びに水をかいていると、ふと視界の端に鏡に映った自分の体が目に入った。
眼に映るは肌は白く透き通っていて、荒らされた形跡など全く窺えない。
それは瘴気中和の話が出てから、アッシュに呼び出されることが無かった為だ。
付けられた痕はガイの手当てと、時間の経過によって綺麗に消え去っている。
どこにも行為の痕など見られない。
まだ幼いとしか言いようのないその身体は、まるで処女の様だった。
(これなら…)
ガイに見せても大丈夫かもしれない。
瞬間、頭に過ぎった思考にルークは頬を染めた。
それに伴い鏡に映る体も血が巡り赤く染まる。そんな自分を顧みて、ルークは唇を噛む。
羞恥に近しいものから来る体温の上昇ではあったが、決してそれではなかった。
自分の内に湧いた浅間しい欲求。願ってはいけない欲望を描いたことに、恥じてのことだった。
アッシュに蹂躙を受けた日以来、ガイは無条件に優しい手を差し伸べてくれた。
胸の内に誘い込んでくれた腕は温かくて、どこまでも優しい。
ガイの存在があったから、今まで自分を失わずに生きてこれた。そう言っても過言ではなかった。
そして、ガイに救われる内に捨てようとした想いが溢れ、思うようになってしまったのである。
この腕が自分のものであったらよいのに。この腕に抱かれたい、と。
「つっ…」
ルークは壁に拳を打ち、頭を左右に振った。
(駄目だ。駄目なんだ…それは…願っちゃいけないことだ…)
今はもう何の痕も無い体躯に見えるが、それは表面上のことだけだ。
この身体は既に何度となく他の男を受け入れ、奥底に存在を植え付けられてきたのである。
こんな穢れ切った身体をガイの前に女として晒せる訳がない。
彼を愛する女として、抱かれることは許されないのだ。
ルークは想いを振り払うように湯から上がり、風呂場を後にした。
肌を伝う水滴を備えつけのタオルで乱暴に拭き取りながら、寝室でガイと顔を合わせる時には、この醜い恋情が浮かばないことを祈った。
2008.5.19