まるで花弁のように



男として、いや、人間として最低なことをしているという自覚はある。

だが募りに募り、膨らんだ想いに到底止められる理性などとうに持ち合わせていなかった。

だから今夜も、過ちを繰り返す。





日付がとうに変わった真夜中過ぎ。草木も眠るとはよく言ったもので、その晩、空気を震わす存在は皆無であった。

それは隣のベッドに深く身を預ける少女にも例外はなく。強行軍が続く旅の中で、その行動範囲の狭さ故にか、

寝付きが悪かったという過去の事実を忘れさせる程の深い睡眠を少女は貪っていた。

規則正しい寝息に彼女の熟睡を確認すると、男は徐に起き上がり自らが寝ていたベッドをあとにする。

そして一メートルにも満たない距離に並列する、少女の眠るそれに躊躇なく乗り上げた。

「ん…」

僅かに発った軋み音と沈んだマットレスに不随意の声を上げるが起きる様子は一向にない。

それに男は満足気に笑むと、掛け物から覗く白い手を取りシーツに縫い付け、少女に覆い被さった。

そうして露わになった、冷気に温度の下がった頬に唇を掠めた後、赤く色付く彼女の唇を吸った。

伝わる柔らかな感触に、胸に疼きを覚える。

(ルーク…ルーク、ルーク!)

男は彼の愛しい名を叫ばんばかりに心内で呼び続け、呼吸の妨げにならぬ程度に触れるだけの口付けを繰り返した。

そうして離れた時に目に映る、己の唾液で濡れ、月明かりに光る唇に見惚れた。

本当はもっと深く、それこそ貪るような口付けをしたいが、それをすれば彼女は確実に目を覚ましてしまうだろう。

そうなればこの身に待つのは、破滅に近い運命であることが見えていた。何せ彼女は公爵家の姫なのだから。

その彼女を犯した罪は、決して解雇や国外追放程度で処されるものではないだろう。

なにより、宿で同室になることを許される程信頼を得ているこの関係をガイは崩したくはないのだ。

死することよりも彼女の傍を離れがたかった。

このまま身を重ねたいと思うほどの激情を抱いているが、事が簡単に露見してしまう現状でそれは禁忌である。

迫り来る時間切れに、ガイはいつものようにこの浅ましい行為を終焉させる、更なる卑しい行為に手を出した。

「ふっ……」

既に弾けんばかりに怒張した、自らの雄を寝衣の前をくつろげ取り出す。

それに伴う僅かな摩擦にさえ反応する己に嘲笑を零しながら、ガイはいつもの様に力なく寝台に沈むルークの手を取り、

張り詰めた雄に導いた。

「はっ…ん、は、はぁ」

滑らかな柔肌が触れる感触に思わず感嘆の息が零れる。

最早、皆無となる理性に従い、ルークの手の上から己のそれを重ね、自身を擦り上げ欲を満たし追い詰めてゆく。

室内には抑えきれない男の獣の様な息使いと、先走りに濡れた雄が白い手に擦られ発てる音が響いていた。

視線を落とせばそこには白濁の混じる液に汚れた愛おしい手があり、獰猛な性欲が満たされるのをガイは感じた。

「ルーク、ルーク…!!」

上り詰める瞬間我慢出来なくなり、ルークに目を覚ます様子が無い事を確認する。

そして夜間は胸当てをしない彼女の習慣に、たった一枚の薄布越しに触れることの出来るルークのたわわな胸に手を伸ばした。

伝わる柔らかな感触に促され、直に触れた時の妄想も手伝い、ガイは我慢を振り切り欲を飛ばした。

白く小さな、まだ少女でしかないルークの手にはガイの白濁が雄を伝い零れ落ち、滴るのみであった。




真夜中に人目を盗んでの、愛しい少女の手を無断で借りての自慰行為。

それによって生まれる背徳心は、性欲を満たすには今はまだ充分なものであった。

だが、自分が満たしたいのは決して性欲などではないのである。

それには確かに性欲も伴うものなのかもしれないが、そこまで薄汚れたものではないと思う。

出来ることならそれに伴う形での身体が欲しい。

しかし、それはとても得難いことを知っている。

何せ彼女は自分に友人としての感情しか抱いていないのだから。

その事実は己の想いの成就があり得ないことを示している。想いを伝えたところで一蹴されることが目に見える現状で、

それを成す勇気などガイにはなかった。

だが、彼女を欲する欲は抑えが効かず、夜の行為はエスカレートする一方である。

日に日に大きくなる想いを抱えながら、ガイは悶々とした日々を送ることを強いられていた。





訳も分からぬまま、突発的に失踪したルーク捜索の為に出た旅のため、ここケセドニアに訪れたのは本当に偶然のことであった。

その偶然に、ガイは心底悦んだ。



「あの薬、まだ扱っているかい?」

中心街から外れた裏通り。治安があまりよくないこの地でも、一層それが目立つ地域に、一日に数時間だけ店を出す露店があった。

そこは昔からケセドニアに使いに出されるたびにガイが訪れていた薬屋である。

幼い頃のあの惨劇のせいか。幼い頃から夢見が悪く、不眠症に陥ることがしばしばあった。

その度にこの店の睡眠薬を用い、深い眠りを得ていた。

だから効き目をよく知っている。

店の天幕の奥から戻って来た店主の手にあるそれを見てガイは笑みを濃くした。







 

今宵は満月だった。

カーテンの開け放たれた窓からは、惜しみなく光が注ぎ、寝台に沈むルークを神秘的に照らしていた。

その様にガイは情欲が激しく疼くのを感じる。

そうして手にしていた本を宿に備え付けられている寝台に置くと、椅子から立ち上がり寝むる少女に歩み寄った。

寝台に乗り上げてもルークが目覚めることはなかった。

昼間得た薬が混ぜられた夕食を食べてから一刻。丁度、薬が効き始める頃であった。

ガイはルークが目覚めることがない確信を得ると、彼女が纏う衣服の釦を外していった。

そうして月光の下に露わとなった白銀の肌を目に入れ、笑みを一層濃くした。







触れてしまえば抑えが効かなくなることが分かっていた為、今まで見た事も触った事も無かったそこにガイは手を伸ばす。

薄い下着越しに触れた秘部は、口付けに反応したのか僅かに湿り気を帯びているようであった。

絹の滑らかさを伴った感触もおつなものだが、すぐに焦れてガイは徐に下着の中に手を侵入させる。

薄い陰毛を掻き分け触れたルークの性器は想像以上に柔らかく温かかった。

漸く辿り着いた事実に思わず感嘆の溜息が零れ落ちる。ここにもうすぐ入れることをガイは心から喜んだ。

自慰の最中何度も思い描いた、ルークの膣の感触を知りたく思い、そこを探すために下肢を覆う下着を抜き取る。

そうして眼前に晒されたのは、未だ嘗て誰も侵入したことないルークの秘孔であった。指で広げれば膣口を窺う事が出来る。

目にしたそれにガイの雄はすぐに侵入できる程の硬度を持っていた。

耐え症の無い自身の雄に、手に得た戦利品を与える為に受け入れさせる準備をしようとしたときにガイは気付いた。

ルークの意識を奪う為の薬を入手することばかりに思考を取られ、侵入を楽にする潤滑剤の用意に失念していたのだ。

「まいったな…」

処女の場合、入念に濡らさなければ挿入の際、雄の質量に膣が傷付く恐れがある。ただえさえ女の初めては痛いと聞くのに、

そんな余計な痛みをルークに味あわせたくはない。

何か代用品はないかとガイは辺りを探ったが、性行為を助けるそれが健全な普通の宿にあるわけがない。

「仕方ない…俺ので代用するか…」

ガイは不意に視線を落とし目に入った雄に思い付き、夜着の前を寛げ育ち切った雄を取り出した。

そうして、眼前にあるルークの秘部を肴に徐にそれを擦り上げ自身を追い詰めた。

「はっ、ふ…る、く…」 我慢することなく快楽を受け入れれば、若い肉体はすぐに上り詰め、白い粘液がガイの手を濡らした。其れを指に纏わせると、

ガイはルークの膣口に塗り付けそのまま侵入させる。

「ん、あ…あぁ」

予想通り、精液は見事に潤滑剤の役割を果たし、ルークの膣は難なくガイの指を飲み込んでいった。そうして暫く経てば、

感じる性感にルークの膣からも蜜が零れ指の前後運動を滑らかにした。

「そろそろ、いいかな?」

返答がある訳でもなく、それを期待している訳でもない言葉が空間に広がる。

ルークの呼気も徐々に荒くなってきた頃、とうに再び勃ち上がっていた雄が限界を訴えていることを悟り、ガイは指を引き抜いた。

力なく放り出されている華奢な足を掴み不躾な程開くと、間に入り自身の下肢を覆う布を脱ぎ捨てる。そうして完全に露わになった、

先走りを垂らす雄をルークの膣口に擦りつけた。伝わる熱に驚いたのか、一瞬震えたルークに満足気に笑むとガイは一気に雄を突った。

「いっ…!ああ、あ、ああ!!」

感じる鋭い痛みに反応してか、ルークは痛々しい悲鳴を上げながらも、その瞼が上がる様子はない。

それに笑むと、ガイは残りの竿の部分もすぶすぶと膣に収めていった。 ルークの肢体が寝台上で跳ねた。

「ん、はぁ…気持ちいい…」

離さないとばかりに纏わりつく、ぬるみを孕む柔肉に思わず喘ぎが零れる。もっとルークを味わいたい。そう切に思い、

ガイは処女の締め付けを振り切り腰を動かし始めた。

くちゅくちゅと膣壁とガイの雄が擦り合う水音が響く。二人分の体重を預かる寝台が激しいガイの揺さぶりに鳴いていた。

ルークの身体がガイの腰使いに抗わず揺れている。

室内にある全てが性交を行っていることを示しており、ガイはその生々しさに興奮しもっと深くルークと交わりたいと願い、

上体を倒し口付けを願った。

そうして接近したことにより、薄闇の中明らかとなった顔に伝う涙に、ルークの痛みを知りガイは嬉しくなる。

「そっ、か…ルークは、初めて、だもんな?ん、は…初めてのセックスだからな…」

「ん、はぁ…い、たぁ…」

水が流れた跡を舌でなぞり、そのまま淡い唇を舌先で愛撫する。

「俺も、初めてだよ。痛いか?ごめんな…。でも、凄く…凄くルークの中、気持ちいいよ」

破瓜の痛みにただただ涙を流し、それでも意識が浮上することのないルークには理解できない、極上の蜜の味を教える。

「ルークにも、俺を早く感じてほしいよ…」

そう願い貫き続けた結果、ガイがルークの中で果てた頃にはルークの顔は赤らみ、寄せられた眉は緩んでいた。

そこには確かに快楽を感じた痕があり、それを目に入れたガイは口角を持ち上げ膿んだ笑みを浮かべた。











「ん……」

瞼を持ち上げ、翡翠の瞳で辺りを確認すると窓から既に天中を越えた日を窺うことが出来た。

「やべ…!寝過した!?」

それに今の時刻が真昼過ぎと知り、ルークは慌てて寝台から身を起こそうとした。が、それは叶わなかった。

途端、頭にそれに何故か下腹部に激しい痛みを覚え再び突っ伏してしまったのだ。両者とも感じたことのない類の痛みであり、

それまで脳内に渦巻いていた皆に置いて行かれた不安や、同室であるガイに対する何故起こさなかったのかという憤りが全て消え去った。

「うっ…いたぁ…痛い……」

特に下腹部の方の痛みは月経痛とも異なり何かが胎に入っている様な感覚も覚え、感じたことのないそれに恐怖した。

ガイ、と心の中で己の従者に助けた時であった。

部屋の扉が開き望んだ姿が現れたのは。

「ガ、イぃ…」

「ルーク!起きたか?具合は、どうだ?」

ルークの目が開いているのを認識すると、ガイは真っ直ぐ寝台の傍へと歩み寄った。

そうしてルークの訴えを一通り聞いたあと、現状を口にし始めた。

「お前、夕べから酷い熱があってな。大事の為に一日休息をとったんだよ」

だから心配するなと笑み、優しく髪を撫でるガイにルークは漸く安心を覚え、力を抜く。

「そっか…俺、熱があったのか」

「そうだ。汗かいてるだろ?蒸しタオルを持ってきたから、これで身体を拭いとけよ」

どうりで身体がだるく、節々が痛むわけだと一人思考の淵に落ちていると、ガイが蒸しタオルの入った袋を渡してきた。

そして用途を説明すると、早々に退室してしまった。

「ガイ…?」

常ならば、性差はあれど気兼ねなく身体の世話を焼いてくれるはずのガイの態度に違和を覚えながらも、確かに肌にべたつきを感じたので、

ルークはとりあえず身を清めようと寝衣の釦に手をかけた。

「……ひっ!!」

そうして露わになった自分の身体の所々に散る、紅い痕に、それが何かも分からずルークは再び混乱を感じ、声にならない悲鳴を上げた。

部屋のすぐ外の廊下には、歪んだ笑みを携えるガイの姿があった。












ガイ様華麗に変態。
というか本当に犯罪者。

2008.2.10