甘い悲鳴



「ガイ……」



これは一体どういう事なのだろう。

男、ガイ・セシルは混乱の極みにある状況に陥っていた。

いや、考えようによれば自身にとっては最高の極みにある状況とも言えるかもしれない。

それもその筈だ。

目前にはどことなく甘い香りを漂わせ、蕩けた様な視線を自分に送り続けている半裸の想い人である少女。

しかも、己と瞳を逢わせたまま夜着に包まれた男の性を示す部分の周囲をか細い指先で焦らす様に触れて来る。

其の所作に、感覚に、鋭く官能が刺激される。

「ねえ…がい…」

本当にこれは一体どういう事であろう。

今夜は一人一部屋ずつ宿に部屋が取れた為、早々解散し半時程前までは確かに一人で寝酒を呷りながら音機関弄ぶっていた筈なのに。

気が付けば寝台の上で己の想い人であるルークに押し倒され、彼女の良い様にされている。

取りあえず落ち着き、向き直そうと思考を浮上させた瞬間。



「がいが…ほしい…」

「る、ルーク!?」

ガイに自身の願望を告げ、ルークはガイの雄を的確に煽る様に触れてきた。そのままガイの衣服を肌蹴させ、

既に僅かに反応を示し勃ち上がっている男の欲望の象徴に躊躇わず細い指を巻きつけ、やわやわと刺激し始める。

「っ、…る…く!」

「きもちいい…?がい…?」

その柔肌が自身を擦り上げることにより生じる過ぎた快感にガイは思わず声を上げ、いまだ自身を包み込むルークの手に其れを押し付けた。

その紳士としてははしたない、無意識の行動を自覚した途端、更なる驚愕がガイの身を襲う。

「!る、ルークっ!!それ、はダメだ…っ」

ガイが自身を襲う快感に耐えている隙に、ルークはガイの下着を大腿まで下ろし、完全に露わになった其れをなんと躊躇せずに口に含んだのだ。

亀頭や茎に舌を這わし、飲みきれない部分を手淫で慰めることも忘れない。

それに普段己の手淫でしか処理をした事の無い、童貞のガイが耐えられる筈もなく。

「っ……!ああっ!!」

「!!ふぅ…んんぅ……ん…ぅ…」

脊髄を駆け抜ける感じた事の無い快感に、溜っていた事もあり、ガイは呆気なくルークの口内に声を上げて射精してしまった。

いきなり訪れた其れに驚きながらも、ルークはガイの精液を受け入れ、飲みほす。

その所作に、ガイの脳裏に当然の疑問が浮上する。


(初めてじゃ…ない?)


ルークの其れは、初体験をしたことが無いガイから見ても手管の動作の様に見えた。其れが意味する事とは。


(処女じゃないのか…!まさか…屋敷にいた頃?………ヴァンデスデルカに?)


ファブレ邸に居た頃、ルークは深窓の令嬢だった。だがしかし、そんな彼女に気兼ねなく触れられる距離にいた男が二人いた。

一人は自分。もう一人は、己の従者でルークの剣の師である男。

夜伽の仕方など教えた事などガイにはない。

男の誘い方などガイは知らない。

そうなると相手はあの男以外には考えられない。

今は敵となったあの嘗ての同盟者に新たなる私的な殺意を覚える。

自分とて、そんな綺麗な人間では無い。ルークには屋敷にいた頃から、彼女があの鳥籠に囚われていた小鳥であった時から想いを寄せていた。

空に焦がれる彼女に恋をした。

何時だって欲しかった。

無理矢理でなら、四六時中傍にいた自分には手に入れる事が可能であったが、あえて其れをしなかったのは、

其の紅い花が真の意味で愛しかったから。

其れは愛情なんて生やさしいものでは無いのかもしれない。





それでも。





悔しくて涙が頬を伝いそうになった時に全てを吸い上げたルークが顔を上げ、ガイの眦を伝う液体を舐め取り、視線を逢わせた。

口角から白い液体を垂らす、赤みを帯びた顔に恍惚とした表情を浮かべたルークと目が逢う。男を誘う、この表情を教えたのは自分ではない。

しかし今、彼女は自分を欲し、求めているのだ。

今、この表情を創っているのは己なのだ。

今、彼女の世界にいるのは自分だけなのだ。

そう自覚したら。



堪らなくなった。



今がどんなに異常な状況にあるかということもガイは故意に忘却し、その半分露わとなっている白い肌に手を這わ沿うと腕を伸ばす。

「だぁぁめっ!」

「…えっ?」

「がいは、おれに、さわっちゃだめなの!!」

途端、伸ばした腕がルークに叩き落とされ寝台に落ちる。

「めーれい!だがらな!!」

「で、でもな?」

「めーれい!!」

顔を赤らめ、久しぶりに聞く主人の強い口調で手出しの禁止を告げた後、ルークは再びガイの性器を弄び出す。

其の快感から逃れるようにガイは目を固く閉じ刺激に耐えた。

男が優位でありたいこの行為で、ルークに犯されることになるとは。

しかし経験が皆無であることからの恐れと己の使用人根性も相俟って、ルークの命令に逆らう事が出来ない。

つくづく主従関係だな、と情けない己に嘲笑を零した時に耳慣れない金属音と衣擦れの音が届く。

ガイがそっと目を開くと、ルークの手によって硬度を取り戻し、すっかり勃ち上がった自身の雄と、

下肢を覆う布地を取り払ったルークの姿が眼前にあった。

「ルーク…」

焦らすように裸体を見せつけるルークはいつも以上に綺麗で。

繋がりを求めてガイは無意識に手を伸ばした。ルークはそれに答える様に屈んでガイの手を取り、指を絡めた。

同時にガイの下肢を跨ぐように乗り上げる。

口淫や手淫を己に施したせいで興奮したのか、あるいは元からなのか。

ルークの蜜壺からは愛液が溢れ、内腿を伝い光っていた。其れが一粒落ち、ガイの雄を濡らす。

「っ…!」

堪らない。

男を挑発する其の所作に、一瞬でも早くと交わりを乞う様にガイは懇願の眼差しをルークに向ける。

思えば其れは実に情けない様だったかもしれない。 其のガイの様を見て、ルークは一度ふわりと綺麗に笑むと、愛液を垂らした蜜壺に先走りが零れるガイの雄を宛がった。



過去なんてどうでもいい。



どういう経緯でこの状況に陥ったかは全く思い出せないが、今まさにこの瞬間ルークは自分のものに、己はルークのものになれるのだから。

これでいいんだ。

これから先、ルークの未来は自分のものなのだから。

そう思考しガイはこの行為間で初めて笑んだ。

互いの性器を隙間無く密着させる為、ルークが腰を勢いよく落とし、柔らかくとろとろに溶けた膣がガイ自身を包み込んだ瞬間。





「ぎゃぁああああ!!いってぇええ!痛っ!まじで痛ぇ〜!!」





それは起きた。

「る、ルーク!?」

銜え込む熱の大きさに、感嘆の嬌声を上げるかと思いきや、全く色気の無い悲鳴が突如ルークの口から上げられる。

同時に、下肢に走った痛みからなのか苦痛の声を上げ、ガイから身体を離し、生々しい水音を立てながら雄を慌ただしく膣から抜いた。

「っ…あっ…」

そのルークの動作に生じた、自身を擦る摩擦に口淫以上の快感を得、ガイは一瞬我を忘れそうになったが、己から離れた以来、

下腹部を押さえ寝台に突っ伏しているルークの異常を訴える様が眼に入り慌てて彼女を抱き起こした。

「ルーク!ルーク!!」

うつ伏せに倒れる彼女を抱え込み、顔を覗き込むと其の表情は苦痛に歪み、脂汗を浮かべ涙で濡れていた。

が、意識はあるようで今も小刻みに震えながら痛いという言葉を呪文の様に唱えている。

「ルーク…?」

一体、ルークはどうしてしまったのだろう。

酒場などで男のモノが大き過ぎると、よく愛撫しない場合、女が受け入れられなかったり、

傷付けてしまう等という下世話な話を今までに耳にした事があったが、今はどうも其の状況にあるとは思えなかった。

ルークの膣は十分に潤い、蜜を垂らすほどに濡れていた様に覗えた。慣れていれば大した抵抗もなく受け入れられるのは明らかだ。

だが、今のルークの痛みの訴えようは尋常では無い。

と、ルークが痛みを訴え押さえている箇所を看ようとガイが視線を下肢に移した瞬間。

信じ難いものが眼に入る。



「る、…く…?お、まえ、…」

白い内腿を彩る紅。

其れはさっき自分を受け入れていた部分から続いていて。


まさか。


「お前…初めて…?俺を受け入れたのが初めてだったのか…?」

掛けられた言葉にルークは益々顔を赤らめ、痛みに耐えながら小さく頷いた。

「がいぃぃ…、ひっ、痛いよぉ〜。うぅ」

其の涙を浮かべ震える頼りない様に、ガイは無理矢理に行為を続けたい衝動に駆られる。が、其処は愛しいルークの為、

あやす様に薄い背中を撫でながらそっと抱き締めた。



一刻も早い安息を願って。



そうして僅かに平静を取り戻したルークの口から語られた状況の真実にガイは陰謀を知り、げんなりとするのであった。












気が付いたら全く色気のない話に(汗)
またしても微裏。しかもお題に沿ってない。申し訳ございません。

2008.1.4