義務



初夏を思わせる爽やかな風が開かれた窓から吹き込み、下ろされたカーテンを優しく撫で揺らしていた。

その穏やかな様とは裏腹に、その部屋ではけして平穏な日常とは言い難いことが繰り広げられていた。

カーテンの引かれた薄暗い室内には、二人の人間が寝台に身を預けていることが、靡くカーテンの隙間

から差し込む光に照らされてかろうじて覗える。

その太陽の光は、一人の男がひとりの女を寝台上で組み敷いていることを晒していた。

部屋の豪奢な調度は部屋の主人の身分の高さを示す、充分に素晴らしいものであった。

身分ある女性の寝室に男が堂々と入る。

それだけでも異常といえる事柄であると言えるのに、二人が行っていることは更なる驚愕を招くだけの

ものであった。

室内は、男が腰を揺らす度に鳴る寝台の軋み音、獣染みた荒い息使い、性器同士を擦り合わせることで

発生する粘着質な水音、そして少女の流された長い髪とシーツが奏でる衣擦れで満たされていた。

「くっ…つ、はっ…は…」

「ん、…んんぅ…」

真昼間からの淫行。

しかも、正確に言えば二人で行っていることではなかった。

男、ガイが自分の身体の下に組み敷く少女、ルークは其のまだ女とは言い難い幼い肢体をガイの五体に

よって押さえつけられ、挙句、声まで彼の大きな掌に封じられていた。

その為、身を引き裂かんばかりの行為の否定の感情を示す叫びは喉元に留まり、口から漏れるのは僅かな

呻きのみであった。

唯一可能な抵抗は、目元から透明な水を垂れ流すことのみである。

当然、そんなことで助けなど呼べる筈もなく、いつもルークはされるがままであった。

眼下でただ涙を零し続ける少女の痛々しい様を見ながら、ガイは憐れむこともなくむしろ満足そうに笑み、

まだ僅かな膨らみしか持たない乳房に五指を這わせ弾力を楽しんだ。

同時に、嫌でも感じる感覚に、立ち上がった突起に指を絡め刺激する。

足された刺激に、ルークの身体がしなり寝台上で弾んだ。

ルーク自身は拒否をしても、重なる行為で解かされ尽くした身体は素直に反応を示す。

快楽を享受したことによって、不随意に膣が収縮しガイの雄を締め付けた。

ルークの意思とは関係なくとも、彼女が敏感に感じる処を集中的に突き上げれば、身体は即時に反応を返し

子種を欲し男の射精を促す動きをする。

それに気を良くしたガイは、利き手を自身を受け入れている膣のすぐ上に在る、小さな突起を悪戯に摘み、

擦り上げた。

「ん、い、ゃあっ!がっ…んんんぅ!!」

「くっ…はぁ!」

その直接的な刺激に抗えぬ絶対的な快感を得、ルークは限界を迎えガイの腕の中で果てた。

同時にぬるみが増し、ざらついた男に快楽のみを与える膣壁が強くガイ自身に絡み付き全てを持ってゆこうとする。

その動きに抗わず、ガイはルークの膣内に精液を叩きつけるように吐き出した。

腰を動かせながら、最後の一滴まで注ぐ。

そうやって漸く萎えた雄を引き抜けば、どろりと大量の白濁が流れ出す。

既にシーツは、何度も出されたガイの精とルークの膣から溢れ出した愛液、更には二人分の汗などの様々な

分泌物が付着し、この上なく汚れていた。

普通は嫌悪を感じる筈の、その性交の証を目に入れながらガイは悦に目を細めた。

そうして、眼下で未だ小刻みに震え嗚咽を漏らす、愛しい少女の華奢な肢体を強く掻き抱いた。

「一緒にいけて、嬉しいよ…ルーク…」

「くっ…ぅ、…ひっ、え…」

そうして残酷までに綺麗な笑みを携え、自分の幸福を伝える。

ルークから返ってくるのは、悲愴に満ちた呻きだけだったが、ガイは一向に構わずただ深い口付けを与えるのみであった。















(どうして…?どうしてだよ!!なんで、こんなこと…するんだよ!)

声にならない言葉は吐息に消え、ガイの雄に膣内を突かれ続ける事でやがては感じるようになった快感といわれる

感覚に思考が支配され、注がれた欲望に遂にはのまれていった。

この行為によって得る快楽は、ルークにとって女の悦びとはほど遠いものであった。



この屋敷の令嬢であるルークの精神は誘拐事件の後、心的外傷からとても幼くなっていた。

あの事件から早三年の月日がたった今でも、精神的年齢を言えば八歳程度の子供のそれとしか言いようがない。

それを考慮した上で成長に必要なものだと、ルークには昼寝の時間なるものが設けられていた。

だが、自分が十三歳だと知っている子供が素直に寝付く筈もなく。

その為に子守役のガイが、ルークを寝かしつける任をこの家の家令から賜ったのだ。

この事実にルークは当初、この事実を悦んでいた。

最近その身分の差の為か、ガイと公式に接すことが難しくなり、共有する時間は減る一方であった。

この屋敷内で唯一、友人と呼べる男との離されることはルークを暇にさせ、更には一種の寂しさも感じさせていた。

異性である彼が、何故己の寝室に堂々と身を置くことが出来る任に就くことが出来たのか。

そんな当然に浮かぶ筈の疑問が、まだ幼いルークの頭に過ることはなく。

自分の魅力を知らぬ少女はこの決定に喜び、ガイの来訪を寝台上で大人しく待っていた。

そうして訪れた常とは異なる笑みを浮かべた男によってもたらされたのは、けして平穏な眠りとは程遠い、

幼い少女には理解し難い昼下がりの行為であった。

其の日、ガイの手によってルークは『少女』から『女』となった。









憔悴と疲労を滲ませ、今は意識を彼方に飛ばし泥のように眠るまだ少女としか言いようのない顔をガイは愛おしそうに見詰め、笑んだ。

「お前が、悪いんだ」

そう。俺の心を奪ったお前が悪い。

お前を愛すことで、俺は自分を確立していた全てのものを失った。

復讐という生きる糧を俺からもぎ取り、絶望を突き付けたお前には、俺を受け入れ愛す義務がある。

一生俺に身を捧げる義務がある。

「そうしなきゃ…そうしてもらわなきゃ、俺は…」

ルークの部屋着の一番上の釦を掛け、シーツをその身にかける。

そうして平穏を取り戻しつつある寝顔の頬に、唇を落とした後、ガイはいつもの使用人の顔をして扉から出て行った。



これが日常となりつつあった、あの日のこと。












裏に置いてあるのにも関らず、微裏。
期待していた皆さん、申し訳ないです。

2008.1.1