鎖と檻と、そして君 1


其の日のガイは何処かおかしかった。

何が、とは言えなかったが常とは異なる空気を纏っていた。

其れはあの忌まわしい呪詛を受けていた時に放っていた気に少し似ている気がした。









ガイが異常だという事が確かなものとなったのは、日が傾き空を黄金に染め上げる夕時になったときであった。

行程通りに旅が進んだ為、予定通りに辿り着いた街の宿。そこで二人部屋を一つ、一人部屋を四つ確保した後、

ガイは俺との相室を宣言し仲間の反対を押し切り、俺の手を取ると強引に部屋へと歩を進めていった。

世の中の一般常識では、いくら共に旅をし、背中を任せられる仲間であろうと性の異なる者が同室になることは

好まれたものではない。では強引であろうとそんな無茶な事が何故通ったか。

答えは簡単だ。

俺とガイが恋仲にあり、既に結ばれた事があるからだ。

俺がまだ鳥籠の鳥であった頃、屋敷で軟禁の身にあった時からガイと俺は恋情で繋がっていた。

だが当然、公爵令嬢と使用人の恋は決して甘いものではなかった。

物理的に僅かな距離がとても遠かった。

触れたい時に、触れ合いたい相手と触れ合えない。

闇に紛れてガイが窓辺に訪れ、触れるだけの口付けを交わし、離れる日々。

それ、だけであった。

ガイの去り際、必ずと言っていい程緑眼から水が知らず零れ落ちた。

涙は禁じえなかった。




初めて身を繋げたのは外の世界に放り出され、ガイと再会を果たした後、最初に訪れた街。

そこで招きを受けた宿の俺の部屋に、真夜中過ぎ、バルコニーからガイが訪問して来た。



「もう、離したくないんだ」



大好きな眼で真っ直ぐ俺を見据え、告げられた真激な想い。

其処で身分に縛られない、初めて、ただの男と女としてガイと俺は出逢い、互いの心を、身体を隙間無く埋め合った。

幸せ過ぎて、涙が禁じえなかった。

その翌日の俺とガイのあからさまな態度に、旅を共にしていた仲間には瞬時に結ばれた事が知れ渡った。

だが、一度情を交わしたりしたからといってガイは安易に俺を抱こうとはしなかった。

俺の性格を考慮し、初めての時のように密かに俺を訪ね求め、俺が行為を渋れば優しく抱き締めて眠るだけの夜

を過ごしてくれた。

だから今日のガイの此の態は異常と形容できるものであった。

恋人同士である男女が、同じ室内に一晩泊まる。

何を目的としているかは考えずとも分かる。

俺を気遣う、いつものガイならばこんな事はしない。




「ガイ、どうしたんだよっ!!」

宿の二階の奥の角部屋。ガイがとった二人部屋は其処にあった。

部屋に入るとガイは担いでいた二人分の荷物を床に乱雑に放り置き、痛みを感じる程の強さで俺の手を引き、寝

台の手前に立たせる。

年季を感じさせる古めかしい家具が置かれる部屋の、中央に設置された二台の寝台には早い時間に入ったにも関

わらず、既に清潔な寝具が整えられていた。

用途が睡眠だけではないそれらに身体の芯が慄き、肌が粟立つのを感じる。

「何だよ!本当に……一体……………ガ、イ?」

其れを目に入れぬ様にしながら、赤らんだ手首を庇い目線を上げると、其処には見知った顔の見知らぬ男が立っていた。

零下にある固く凍った氷の様な色を持つ二つの視線が其処にある。



一体これは誰だろう。



可笑しな疑問が俺の脳裏を掠めた。

己の人生の中でこの男ほど自分の傍にいた者はいない。

七年の生の中でこの男ほど自分を愛してくれた者はいない。


それなのに。


常ならば、其の冷たい色からは想像出来ない様な温かさで自分を見守る男の、其の身に宿す感情を変えただけで

此処まで別人になるとは。

信じられなかった。

ガイは俺の問いには応えず、行動に移した。

正面から強い力で押され、俺は背後に在った寝台に倒れ込んだ。咄嗟に、状況が理解出来ず本当に咄嗟に上体を

起こそうとしたが、瞬時にガイが寝台に乗り上げて俺に覆い被さって来た為それは叶わなかった。

あまりに突然の事過ぎて思考がついていかない。だが身体は異常を解していたのか、腕は抵抗を示す為に振り上

げられ、空を切っていた。

そんな俺の女の微弱な力の抵抗に、些細な事だとでも言うかの様にガイは目もくれず、俺の胸元に手を置くと、そのまま左右に服を引き裂いた。

「がっ…!!」

あまりの急展開に頭が真っ白になる。

同室に引き込んだことから、ガイが俺を欲している事を感じていた。

だが、まさか。

こんな、強引に。

「ああっ!!い、嫌ぁっ!嫌ああ!!がい…、ガイぃい!!」





最悪だった。






痛みを感じる程に乳房を鷲掴み、揉み上げ、頂を噛み切るのではないかと疑うくらいに吸われる。

そして碌に慣らしも、濡らしもせずにガイは昂ぶり反り立った雄で俺を貫いた。

処女でもないのに結合部から鮮血が零れ落ちる。

(痛い、痛い痛い痛い痛い――――)

俺は恐怖のあまり声を出す事も出来なかった。嗚咽の混じった呻きに混じり、掠れた吐息が零れる。顔は見なく

ても分かる程に酷い表情が其処にあるのだろう。

何処かにいる冷静な自分が、自身の態を残酷に分析していた。



「くっ……」

精神、肉体の苦痛のあまりに故意に気を飛ばそうと瞳を固く閉じた時に、犯す者の唇から色を含んだ吐息が零れた。

同時に感じた、下腹部を侵す様に流れ込む熱い流動体。



まさか。



だってガイは。



俺の事が大切だからって。






「あっ…な、なかに…なにかが…」

今まで感じた事の無い其れに不安を感じ、いけないと思いつつも、俺は目を開けて眼前の男に問い掛けてしまった。

俺はここで目を開けてしまった事を、眼の前の人物の顔を仰いでしまった事を、一生後悔する。



そんな事を思った。



室内は、夕焼けから夜の闇色に変わる挟間にあった。

太陽は沈む前に一生逢えぬ恋い焦がれる相手、月に、せめてもの贈り物、其の日最後の光を贈るという。其れが

雲に入り、乱反射し届くのが入り光だ。

そんなお伽話を、優しい嘘の話を其の優しい男は俺が幼い頃にしてくれた。

俺が泣かないように。

泣きやむように。

笑うように。

其の優しく綺麗な光が今は俺を奈落に突き落とす。

目の前には、声を上げずに高笑いするガイの顔があった。

俺が意識を手放す前に、眼を閉じる前に、ガイは精を吐きだし終え締め付ける膣圧に再び勃上がった雄を深く突

き立て、律動を始めた。











ガイが俺から出て行く事は一度もなかった。

深く貫き。突いて。出して。また深く押し入る。

萎えている僅かな間も、惜しむ様に腰を動かしていた。

くちゅくちゅという水音と、ぎしぎしと軋む寝台の音、僅かな互いの喘ぎだけが空間を占めていた。

俺はガイから一瞬も目を離す事が出来なかった。




身体が限界を訴え、自然と意識が離れる其の時まで。


























ようやっと思いの丈まで、想い人の膣内に欲望を注ぎ果たし萎えた雄を引き抜くと、くちゅりと生々しい水音と

共に精液が溢れ出した。愛しい人の内腿を伝い、その白い液体がシーツに付着する。

目線を上げれば、眼尻を赤く染め上げ涙と汗に濡れた顔があった。

其の表情からは、絶望と共に僅かな疑問と己への愛情と哀情が感じられる。

心底愛しいと思う。

燃える様な夕焼けの髪も。

其の色が栄える白い肌も。

この世に二つと無い、稀有な宝石を思わせる気高い緑眼も。

それこそ彼女を構成する音素の一粒ひとつぶまで。

だから――――





「誰にも、渡したくないんだ」

ルークの周期は把握している。

おそらく、今日の行為で其れは実るであろう。

もし実を結ばなくとも、また注げばいい。

「お前が、俺とルークの絆を絶対のものにしてくれな…?」

今は何の変調も見られぬ薄い腹に、ガイは左手を這わせ愛しみ、利き腕でルークの膣から溢れ出した自身の精液

を拭い取ると指に絡み付け、再び膣内に流し込み膣口を掌で塞いだ。




其の時が、月が満ちるのが待ち遠しい。

満ちた弧を描く月が寝台上を照らす中、ガイは綺麗に笑んだ後、昔僅かな逢瀬の後によく施した優しいだけの口

付をルークに贈った。















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「ガイは六神将!」的な話になるはず!です…。
ていうか、うちのガイはかなりルークの妊娠にこだわり過ぎです。
というか、殆どてか全部強姦です。
ガイ様、最低です。

2007.12.31