何もかもが夢であればいい。
記憶を再度刻み始めてからの六年間。
昨晩ほど其れを願った日は嘗て無かった。
過去を失い、右も左も分からず、家族の顔さえ忘却の淵に落としてしまった自
分に一から全てを与えてくれた青年が、まさかあんな形で自分の信頼を裏切る
とは露ほどにも思っていなかった。
己にとって専属の使用人であり、親友であり、時には父の様に兄の様に慕って
来た彼が、まさか自分を女として見ていたなんて考えたことも無かった。
彼に絶大な信頼を置き、無防備な振る舞いをして来た結果が昨晩のあれだった。
それでも、どうしても彼を憎むことが、蔑むことが出来ない。
昔の、昨晩以前の関係に戻りたい。
彼によって開かれた体を抱え、今尚そう願う事は、愚かな事であろうか。
世界で唯ひとり君を愛す 2
「ん………」
窓を覆う布地から微かな光が差し込み寝台が照らされる。
同時に其の上に身を預けていたルークの顔にも朝日が届く。
其れにより覚醒を促され、小さな呻きと共にルークは僅かに瞼を上げ緑眼を外気に晒した。
常の朝と同様に、そのまま上体も起こそうと試みるが何故か全身に倦怠感を覚
え、指先一つ動かす事もままならない。
僅かに開けた双眼にも、まるで酷く泣き散らした後の様な痛みを感じていた。
まるで子供の頃、夜間悪夢に見え、翌朝体調を著しく害した時の様であると錯覚し、
疑問に首を僅かに揺らした際、全ての思考が停止した。
「おはよう」
掛けられた其の一言で昨晩自らの身に起きた出来事をルークは全て思い出す。
背後から鍛え上げられた男の腕が回され、肌と肌が触れ合い体温が共有された。
其れに昨夜、凌辱されたことが甦り、無理矢理開かれた身体が意識せずとも恐怖に震える。
自らの身を護る様に、動かぬ腕を叱咤してルークは自身の身体に其れを廻し、
自分を抱き締めた。
己の拒絶を意味するルークの其の所作に、嘲笑を零した後、ガイは腕の中で震
える愛しい身体を反転させ自身と向き合わせ、更に強く抱き締めた。
顎に指を掛け強制的に上を向かせ、定まらぬ視線を無理に逢わす。
「身体は、大丈夫か」
「…っ!!」
其の乱暴と言える、無理矢理で粗雑な振る舞いと取れる仕草とは相反する、慈
しみに満ちたガイの場違いな声色に、ルークの瞳に恐れの色が強くなる。
「ルークが俺の腕の中に居るなんて、夢みたいだ」
「ふっ……ぅ…」
ルークの恐れを感じ取りながらも、ガイは構わず綺麗過ぎて恐怖を覚える程の
笑みを浮かべ、自身の幸福を伝える。
其れに限界まで見開かれていたルークの双眼から封を切った様に大粒の涙が溢れだした。
其れを唇で吸い、舌で舐め取りながらガイはルークをあやす様に細い背中を擦る。
自分を傷付ける言葉を吐きながら、自分を慰める所作をするこの男をここまで
憎らしいと思った事は嘗てない。
だが、拒むことが出来ない。
このまま流されてはいけない。
そう理解しながらも、其の流れに逆らう事が出来ない。
解っていた。
自分がこの男を失う事を恐れていることを。
だから、決して拒む事が出来なかった。
彼と身体を重ねる事を。
其処に男女間の愛情が無くとも。
迷いながらも、諦めとも決意とも取れる意思を秘めた緑眼を覗きながらガイは鬱蒼と笑んだ。
力の抜けた身体を自身の胸に寄せながら、其の表情をルークに見えぬよう隠す。
狂わしい程に愛おしい其の心身を頂くのだから。
一生縛り付ける為の、未来に繋げる為の愛しい繋がりを孕んでもらうのだから。
だから、彼女には此れから綺麗なものだけを見せて行くと事前に誓っていた。
「昨日は無理させてしまったからな。熱が出てるみたいだ。今日は安静にしてるんだぞ」
「ふっ……ぅ…」
自身の身勝手な願いを心内で再度確認した後、ガイは未だ震え、涙を零すルークに
気遣いの言葉を掛けながら其の身を一層深く抱き込んだ。
今や抵抗の気力も失せたルークは嗚咽を零しながらも、ガイの施しを無言で受ける。
己を蹂躙した男に縋り付く。
其の愛しい女の哀れな様に、どうしよもない高揚を覚える。
彼女の頬を伝う水を唇で吸いながら、廻した腕を薄い腹部に滑らす。
今はまだ何の変調もない其の部に、昨夜植え付けた欲が、あるいはこれから植
えつける欲が実るよう、薄暗い願いを込めながら。

『強姦まがい』て打ちこもうとしたら『強姦魔ガイ』と変換されました。
すいません。一人でスゴイ受けてました。
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2007.12.31